難民の背景をもつクルド人幼児のためのプレスクール事業

団体名 特定非営利活動法人メタノイア

都道府県 埼玉県

助成額 345,295円

活動開始日 2024/10/1

活動終了日 2025/3/31

助成金で行った活動の概要
本助成では、在日クルド人難民申請者の幼児を対象にしたプレスクールを、埼玉県川口市で週2-3日実施しました。
対象は就園・就学を控えた1〜6歳の幼児で、他地域でプレスクールの講師経験が豊富な日本語教師を中心に、日本語の音韻に慣れるための活動や、集団生活に必要なルールや習慣の習得、遊びや絵本の読み聞かせ体験などを通じて、子どもたちの育ちを支えました。活動への参加者は1日平均1-2人前後でしたが、少人数体制で、個々の子どもに寄り添った支援を行うことができました。
活動の場はクルドコミュニティ団体の事務局を無償で借りて実施しました。主に当法人の別事業である母親向けの日本語教室事業への参加者の子どもたちが本事業に参加する形をとったため、当該事業の会場と隣接する本会場で行うことが、母親たちの安心につながるとの理由から、本会場を選定しました。

本事業は、言葉の壁により幼稚園・保育園等の利用に不安を抱える家族のため、そして就労資格のない仮放免者であるがゆえに保育園の利用も制限される家族のため、日本社会との接点を築く大切な入り口として機能しました。
他人に、まして言葉の通じない人に自分の子どもを預けることに不安を覚える母親たちとの間に、回を重ねるごとに安心感と相互の信頼関係が醸成されていく様が見られました。

活動日数 35日

支援対象者実人数 7人

支援対象者延べ人数 50人

参加ボランティア実人数 0人

参加ボランティア延べ人数 0人

本助成金による活動の成果
本助成によって、仮放免中など不安定な立場にあるクルド人幼児が、集団生活に触れ、日本語の基礎や生活習慣を身につける機会を得られました。活動終了時には、参加した子どもたちの多くが「おはようございます」や「ありがとう」などの挨拶が自然にできるようになり、ひらがなや数字にも親しみを持つようになりました。
また、絵本の読み聞かせや歌、遊びを通じて、他児との関わりや集団行動に前向きな姿勢を見せるようになりました。
事業開始当初は積み木を投げたり、先生が積み上げたものを「壊す」遊びが多かったのですが、次第に遊び方を知り、やがて自分で積み上げて「作る」遊びが中心に変化していきました。一歩ずつ前向きに育っていこうとする子どもの力が垣間見えます。
また、保護者からは「子どもが『プレスクール行きたい』と言って笑顔で通うようになった」「日本人の先生と遊ぶことに慣れてきた」といった声が寄せられ、保護者自身も日本社会の保育・教育制度に参加していくことへの心の準備が進みました。日本語教師や保育士による専門的な支援が継続的に提供されたことで、親と子それぞれの安心感や自信が育まれたことがうかがえ、本助成を通じて、制度に取り残されがちな子どもたちが、尊厳を持って育つための基盤が築かれたと考えています。

事業を実施する中で見えてきた課題と今後の取り組み
本事業を通じて見えてきた大きな課題として、クルド人家族が日本の保育・学校制度へのアクセスする際に直面する「言葉」「制度」「心」という3つの壁の存在が改めて浮き彫りになりました。
「言葉」については、保護者が日本語を解さないことでコミュニケーション上の不安をもち、日本の幼稚園・保育園に我が子を預けることに相当の不安を覚えていることが分かりました。
また、「制度」については、特に仮放免中の家庭は住民票を持てず、公的サービスにアクセスしづらいため、就園・就学準備の情報すら届かない状況にありました。地域に外国ルーツの幼児を専門 に支援できる日本語教育機関がほとんど存在せず、今後も継続的に専門的支援を提供する体制の整備が求められます。活動を通じて、子どもたちには継続的な支援の必要性があること、保護者に対しては就園・就学手続きや地域資源の紹介など伴走型の支援が必要であることが明らかになりました。
さらに、「心」の壁として立ちはだかったのが、近年その苛烈さを増すヘイトスピーチ・ヘイトクライムの問題です。同じ市内に暮らすクルドの幼児が「万引きをしている」というデマとともに顔出し動画を無断でSNSに掲載されるという被害に遭いました。その事件がクルドの親たちに与えた影響は大きなもので、それほど恐ろしいことをする「日本人」に我が子を預ける不安が膨らみ、本事業の開始時にも子どもと離れた母親は気が気でない表情をしていました。子どもを保育園・幼稚園に入れることに対する心理的障壁は以前にも増して高くなってきているようです。

今後の必要な支援施策の展開に向けて、クラウドファンディング等で集めた資金を原資とし、このたび川口市内に常設の支援拠点を構えることができました。そこを起点に、地域内外の行政機関や支援団体と連携を強化し、地域でクルドをはじめとした外国にルーツをもつ親子の日本語学習機会の保障と、包摂に向けた制度の構築を目指します。加えて、積極的な情報発信や、裁判への協力などを通じ、地域におけるヘイトクライムの根絶にも注力していきたいと考えています。複数の高い壁が立ちはだかっっていますが、一つずつ、クルドコミュニティの親子と一緒に乗り越えていけたらと願います。

助成決定した活動を報告したSNSやホームページのURL
https://x.com/takuji85/status/1851449543029899459



寄付してくれた人へのメッセージ
組合員の皆様のご支援により、孤立のリスクが高いクルド人の幼児とその保護者にあたたかいつながりと自信を育む場を提供することができました。改めて感謝申し上げます。
今後も、地域における差別をなくし、真に「誰ひとり取り残されない」社会の実現に寄与できたらと願って活動を発展させてまいります。ありがとうございました。