令和6年能登半島地震災害看護プロジェクト

団体名 一般社団法人日本災害看護学会

都道府県 東京都

助成額 2,990,000円

活動開始日 2024/4/8

活動終了日 2025/3/31

助成金で行った活動の概要
 日本災害看護学会は、災害看護に特化した看護職の団体である。当会は、2024年1月2日より、石川県珠洲市内で活動を開始し、同年2月10日より令和6年能登半島地震災害看護プロジェクトを立ち上げ、継続的に現地活動を行ってきた。本活動(2024年4月8日から2025年3月31日)においても、看護職の専門性を発揮し、生命・健康・生活へのアプローチを根幹として、災害関連死等の健康障害予防と被災者の健康的な生活を確保するためのコミュニティの再構築を目的に活動を展開した。  当会は、令和5年奥能登地震の際より珠洲市で支援活動を展開していた。このため、令和6年能登半島地震発生後、初期(急性期)より、健康増進センター、社会福祉協議会(ささえ愛センター)等の地域保健医療福祉の中核になる人々とともに、健康と生活を支援する体制を再構築してきた。令和5年奥能登地震の経験を越えた被害により、現地では過去の対応からでは判断できぬ状況が生じる中、本会は災害看護の知見を活用し、生じた諸問題への対処方法等を共有しながら、中心になる現地機関の意思決定を支え、そして手が回らない被災者への直接的な支援を補うなど、現地に適した支援活動を展開してきた。  2024年4月には、集落の孤立解消、降雪等による再孤立のリスク低下、応急仮設住宅の設置と入居開始に伴い、自治体における支援体制の再構築を支援してきた。その後、当会は珠洲市内の4地区(正院、宝立、日置、大谷)を担当することになり、地区の状況や特性に合わせ、健康相談事業を中心とした、地域の人々がいつでも集まり、好きなことを言え、共に生活の問題を改善しながら、健康管理の支援を行ってきた。応急仮設住宅の集会所等において健康相談の機会を設けながら、在宅、仮設住宅を個別訪問し、長期化した避難生活による体調不良者の発生を予防した。また復興に必須である住民の思いを形にするために、話し合いの機会設置を支援したことで、住民による住民のためのまちづくりが具体化され、1地区から始めた活動が、珠洲市内全地区に広がっていった。これまでの活動を礎に展開した事業について、成果、課題を報告する。

活動日数 163日

支援対象者実人数 1,212人

支援対象者延べ人数 4,552人

参加ボランティア実人数 24人

参加ボランティア延べ人数 298人

本助成金による活動の成果
 事業遂行のため看護職延べ298人が活動し、延べ4552人の被災者に支援を届けた。主な実施事業ごとに活動成果を報告する。 【健康相談活動によるケアニーズの把握と対応】お茶会等を通じた健康相談が行える場の開催支援65回、在宅や応急仮設住宅への個別訪問891件、その他避難所内での個別ケアを提供してきた。持病がある方の通院内服状況の確認、血圧等の測定、健康体操などを行いながら、生活上の困り事を聞き、一人一人の健康状態の把握、生活不活発病予防のためのレクリエーションの提供等を行った。中には、外出しなくなった人、朝からアルコールを摂取している人、発災当時の思いが胸に強く残っている人もおり、継続的な支援体制につなげるなど、健康状態の悪化の防ぐことができた。 【被災地域での交流機会開催支援によるコミュニティ再構築の促進】地震による住家被害は5,602棟うち全壊半壊は3,848棟と報告され(2025/4/15)、約68%(2018年住宅数5,670戸)の家屋において居住困難な状況がもたらされた。これにより避難所への移動、仮設住宅等への入居、市外への転出等コミュニティの人々が分断された。自治会、婦人会、青年団等の自治活動が停止し、継続的な地域活動が困難になった。復興を進めるにあたり、住民の力、地域への思いを復興活動につなげることは必須である。自治活動を通じて住民の思いを結束させ、復興後の地域を創造していく必要があることから、正院町でコミュニティの再構築に向けた話し合いの場の設置を支援してきた。地域の人々が集い、自由に意見を交わし、課題を行政機関等とも共有できる場を11回開催してきた。やがて本活動が発展し、2025年2月2日正院町未来会議設立総会につなげることができた。 【避難所や応急仮設住宅等の生活環境に関するコーディネート】上記活動を通じて把握した、生活上の課題を解決すべく、多組織多団体と協力しながら、長期化した避難所における衛生環境改善、感染症対策、老若男女問わず使用できる物資配置、生活動線を踏まえた配置調整等の改善を行ってきた。応急仮設住宅では、住民の生活動作に合わせたスロープ、手すりの設置、交流促進のための掲示板設置等を調整した。被害のある家屋で暮らしている人も多く、専門家に相談できる機会につなぐ等、在宅、避難所、仮設住宅の各状況に応じた住みやすさの向上につなげた。

事業を実施する中で見えてきた課題と今後の取り組み
 2つの課題を述べた後、取り組みをまとめる。 【課題:長期的な健康への影響と災害関連死】珠洲市は、被害の甚大さから上下水道の確保等、重要なライフライン復旧にも多くの時間を要した。生活基盤への影響が長期に亘った結果、健康への影響も長期化することは想像に容易い。現地では、多くの人が応急仮設住宅に入居しているが、高齢者、持病がある人が多くを占める。東日本大震災等の被災地では、被災者は長期的に不安、抑うつを生じる傾向があり、特に女性と高齢者に多いとされ、高齢男性は飲酒量が増加する人、相談相手等がいない人が多いことが分かっている。今回の活動でも、類似した状況がみられた。今後も、応急仮設住宅入居による日常生活行動の変化、生活動作のしにくさより、外出頻度の低下が生じて生活不活発病につながり、持病の悪化や孤立が進む可能性がある。また長い避難生活による長期的なストレス環境下がもたらす心身への影響を受け、健康障害をきたす人の増加が懸念される。さらに仮設住宅への入居時期が地区により10ヶ月程の差が生じているため、地区ごとに健康状態の様相が異なる可能性がある。災害関連死の審査を終えていない申請も多くあり、今後も災害関連死認定数は増加の一途を辿ることが見込まれる。今後の災害関連死予防に向け、長期的に関わりながら、住民の生活状況、健康状態の変化を捉えられる人材の増員が求められるが、人材確保が潜在的な課題でもある。 【課題:人口動態の変化と復興】珠洲市は、高齢化率50%を超える地域であり、人口減少、少子化が進む過疎地域でもある。漁業、農業など生業の早期復興に向け、多組織が協働し取り組んでいるが、現地では「いつになったら再開できるのか」「再開できる頃には引退かな」等、先行きが見えない不安、先行きを見据えての不安の声が聞かれる。そこにある地域文化、行事の継承と、今後の労働人口を担う人材の確保、そしてその時暮らす地域のあり方と、地域は多くの課題に向き合い続けている。被災の根底にある課題が顕在化したともいえる複合的な課題が残っている。 【今後の取り組み】学術団体である当会では、上記等の課題解決に向け、現地で必要となる専門的支援の明確化と発信、学際的な連携の推進が求められる。そして、今後の改善に向けた学術的な取り組みと、活動を通じて得られた実態、潜在化している事象の可視化に取り組んでいく。

助成決定した活動を報告したSNSやホームページのURL
https://jsdn.info/%e4%bb%a4%e5%92%8c6%e5%b9%b4%e8%83%bd%e7%99%bb%e5%8d%8a%e5%b3%b6%e5%9c%b0%e9%9c%87%e3%80%80%e5%85%88%e9%81%a3%e9%9a%8a%e6%b4%bb%e5%8b%95%e5%a0%b1%e5%91%8a%e3%83%bb%e8%83%bd%e7%99%bb%



寄付してくれた人へのメッセージ
 全国の皆様からの温かいご寄付により、現地支援活動を行うことができました。ご寄付いただいた皆様に、深く御礼申し上げます。  地震の発生から1年以上が経過した現地では、2024年9月に発生した豪雨災害の影響も重なり、今なお、多くの問題と向き合わなければならない状況が生じております。当会は、被災された皆様の生命、健康、生活を支援するために、災害看護を専門とする学術団体として、知識・技術を持ち寄りながら、現地の皆様の健康的な生活を早期実現すべく尽力しております。長期的な地域課題の解決に向け、引き続き、現地の思いに耳を傾けながら、活動してまいります。 ご寄付賜りました皆様に、重ね重ね心より御礼を申し上げます。 一般社団法人 日本災害看護学会 令和6年能登半島地震災害看護プロジェクト一同